大分地方裁判所 昭和24年(行)3号 判決
原告 大塚輝男 ほか二名
被告 大分県農地委員会
一、主 文
原告等の請求を棄却する。
訴訟費用は原告等の負担とする。
二、事 実
原告訴訟代理人は被告が昭和二十三年十一月十二日別紙目録記載農地の買収計画に対する訴願事件(訴願人平尾秋生)についてした裁決を取消す。訴訟費用は被告の負担とする。という判決を求め、その請求原因として別紙目録記載の農地(以下本件農地と略称)は元訴外亡志賀ウラの所有地で原告等がこれを小作していたものであるが、訴外白丹村農地委員会は原告等のいわゆる遡及買収請求に基き、昭和二十二年九月三十日、本件農地は昭和二十年十一月二十三日現在において自作農創設特別措置法(以下自創法と略称する)第三条第一項第二号に該当するものとしてこれについて買収計画を定め、同年十月八日から同年同月十七日迄の十日間縦覧に供したのであるが、右期間内に異議の申立をした者はなかつた。しかるに、訴外志賀豊繁同平尾秋生は右縦覧期間経過後である同年十二月二日に至つて右買収計画に対し、異議の申立をしたので白丹村農地委員会は、昭和二十三年一月十六日期間徒過後の不適法な異議申立であるとしてこれを却下したところ、訴外秋生はこれを不服として更に被告に対して訴願を提起した。しかるに被告は昭和二十三年十一月十二日訴願人の訴願を理由ありとし、以下に述べる要旨の理由で本件農地の買収計画を取消す旨の裁決をするに至つた。すなわち訴外平尾トミ子が昭和二十年十一月二十三日現在において訴外志賀豊繁方で同訴外人の扶養を受けていたのは事実であるが、訴外トミ子と豊繁とは同一世帯ではないから、白丹村農地委員会が両名を同一世帯に属するものとして樹立した本件農地の買収計画は失当である。というのである。しかしながら右の裁決には次に述べる違法があるから取消を免れないものと考える。
(一) 違法理由第一点
農地買収計画に対し異議の申立を為し得るのは自創法第七条但書に規定する買収計画縦覧期間内に限るのであつて、この期間を経過すれば最早異議の申立が許されないことは右の規定に照して極めて明白である。しかるに本件において訴外豊繁同秋生は前記の如く本件買収計画に対する縦覧期間を徒過してこれに対し異議の申立をしているのであるから、白丹村農地委員会がこれを不適法な異議申立として却下の決定したのは極めて当然であるのみならず、一体縦覧期間経過後の異議申立は自創法第七条に所謂異議の申立に該当しないものと解すべきであるから、訴外豊繁等のした右の異議申立に対し白丹村農地委員会は必ずしも却下の決定をする必要はなかつたのである。しかし本件の如く却下の決定がなされたとしても、この決定に対し同法の訴願は許さるべきでないから被告は訴願の実質的理由を審査するまでもなく不適法な訴願として却下の裁決をなすべきに拘らず、被告はこれを自創法第七条に所謂訴願であるが如く誤解し、訴願の実質的理由を審査して本件の裁決をしたのは違法というべきである。
(二) 違法理由第二点
本件農地の買収計画に対しては前記のように法定の縦覧期間内に何人からも異議の申立がなかつた。従つて右買収計画はこれに因り確定したのであるから白丹村農地委員会は被告に対し、該計画承認の手続を為すべきものであり、次いで県知事は右買収に付自創法第九条に基く買収令書交付等の手続を為すべき段階に到達しており最早何等の方法を以てしてもこの買収計画を取消すことができないことは明かであるに拘らず被告がこれを取消す旨の裁決をしたのは法規を無視した違法の裁決というに妨げない。
(三) 違法理由第三点
本件農地は元訴外志賀ウラの所有であつたが、同訴外人は昭和十八年四月十二日死亡し、訴外志賀豊繁(ウラの養子)及び訴外平尾トミ子(ウラの長女)の両名がその遺産を相続した結果右農地は豊繁、トミ子両名の共用となつたのである。しかるに被告は本件農地を訴外トミ子の単独所有地と誤認し、同訴外人の保有し得べき小作農地と認定した結果右農地の買収計画を取消すべきものとの裁決をしたのであるが、これは正しく前記共有の事実及び共有の性質を無視した失当な裁決というべきである。そして本件農地は原告等が小作しているのであるから、前記共有の関係よりすれば、訴外豊繁の小作地として計算しその結果同訴外人の保有し得べき小作農地七反歩を超えているか否かを決定すべきである。ところで右豊繁が他に小作せしめている農地は本件農地以外に一町二反四畝歩あり、それに本件農地を加えれば同訴外人の小作地は合計一町七反三畝四歩となるから本件農地は豊繁の保有小作地として認めらるべきではないから此の点からしても本件裁決は失当である。
(四) 違法理由第四点
被告は本件裁決において、訴外志賀ウラ及び同平尾トミ子はいずれも訴外豊繁と同一世帯でないという認定の下に本件買収計画を取消す旨の裁決をしているが、これは認定を誤つている。すなわち右ウラはその夫芳太郎が昭和六年四月に死亡した後は同人の家督を相続した養子豊繁の隠居宅として経済的には勿論その他すべての関係において右豊繁の支配下に生活しておつたものであり、且豊繁と別個に独立して村勤めをしたこともなく村民税等も納税したことはなかつた。又訴外トミ子はウラの生存中は同人の許で生活していたのであるが、昭和十八年四月十二日ウラが死亡した後は実父である訴外豊繁方に引取られてこれと同居し、その後昭和二十二年二月二十二日訴外大塚秋生と入夫婚姻した為始めて右豊繁の許を離れて別に世帯を起し、それ以来秋生と共に生活しているに過ぎない。従つて訴外ウラはその死に至る迄訴外トミ子は右入夫婚姻迄いずれも右豊繁と同一世帯に属し買収の基準日である昭和二十年十一月二十三日現在においては明かにトミ子は豊繁の世帯人員たる親族であつたのであるから、本件農地は自創法第四条第一項に基き、保有面積は世帯単位により計算することとなる結果、右農地は訴外豊繁の保有小作地面積を超過する小作地である。よつて白丹村農地委員会がこれと同一の見解の下に本件農地について買収計画を定めたのは正当であつて、被告が訴外ウラ及びトミ子は豊繁と同一世帯員ではない。という認定の下に右買収計画を取消す旨裁決をしたのは違法たるを免れない。
以上によつて明かな如く右裁決は結局いずれの点からみても違法として取消を免れない。而して原告等は本件農地の小作人として前記買収計画が実施されれば、いずれも自創法第六条同法施行令第十七条第一項第四号により売渡の相手方たる地位に在るので、本件裁決の取消を求める為本訴に及んだ次第である。と陳述し、被告等の抗弁事実はすべて否認すると述べ、本案前の抗弁に対し一般の訴願においては訴願法第十五条により訴願の裁決書を訴願人に交付しなければならないから、裁決は右裁決書が訴願人に交付せられたときにその効力を生ずるものと解すべきであつて、このことは既に行政判例によつて明かにされている。ところで自創法施行規則第四条第二項によれば同法により訴願の裁決をしたときはその謄本を訴願人に送付しなければならないものとしているから、この裁決も一般の訴願の裁決と同様に裁決書の謄本を訴願人に交付した時にその効力を生ずるものと解するのが相当である。そこで以上の解釈に従えば、本件裁決に対する出訴期間は結局裁決書の謄本の交付に因り、訴願人が裁決のあつたことを知つた日から一ケ月又は処分のあつた日からすなわち裁決書謄本の交付の日から二ケ月以内ということになる。尤も訴願人以外の者は利害関係者であつても裁決書謄本の交付又は裁決の告知を受けることはないから、かような者は訴願の裁決がその効力を生じた後、現実にこれを知つた日から一ケ月又は裁決書の交付に因り裁決がその効力を生じた日から二ケ月以内に出訴することができるものと解する。しかるに本件において被告のした裁決の裁決書謄本が訴願人平尾秋生に交付せられたのは昭和二十三年十二月二十五日であるから同日から一ケ月の法定期間内に提起した本訴は適法というべきである。尤も原告宗喜が本件訴願の審議である昭和二十三年十一月十二日に出頭して右審議を傍聴した事実はあるけれども、その際本件裁決についてその主文と理由の告知を受けたことはないから、右裁決の内容を適確に知らなかつたし、原告輝男同仁一に至つてはその当時全くこれを知らなかつたのである。仮に原告等が本件訴願の裁決書交付前にその内容を知つたとしても、その日を以て出訴期間の起算日とすれば訴願人よりも早期に出訴しなければならないこととなつて著しく衡平を失するであろうと述べた。
被告訴訟代理人は、原告等の訴を却下する。訴訟費用は原告等の負担とするという判決を求め、その理由として本件裁決は、昭和二十三年十一月十二日に行われたのであるが、原告宗喜は当日これを知つたし、その他の原告は即日右宗喜よりこれを聞知している。仮に原告等が右裁決の日にこれを知らなかつたとしても、同年十二月九日には原告全員が右裁決のあつたことを知つている。従つて原告等は少くとも同日から一ケ月以内に出訴すべきであるのにこれを経過した昭和二十四年一月十二日に至つて本訴を提起したのであるから、本訴は出訴期間を徒過した不適法な訴として却下を免れないと述べ、本案につき、主文と同じ判決を求め、答弁として原告等主張事実中本件農地は元訴外亡志賀ウラの所有であり、原告等がこれを小作していたところ、訴外ウラは昭和十八年四月十二日に死亡し訴外志賀豊繁及び同平尾トミ子の両名がその遺産を相続したこと、訴外白丹村農地委員会は原告等のいわゆる遡及買収申請に基き、昭和二十二年九月三十日本件農地は、昭和二十年十一月二十三日現在において自創法第三条第一項第二号に該当するものとしてこれについて買収計画を定め、原告等主張の如くその縦覧期間を定めたこと、訴外志賀豊繁同平尾秋生が右買収計画に対して異議を申立てたところ白丹村農地委員会は縦覧期間経過後の不適法な申立としてこれを却下したので訴外秋生はこれを不服として更に被告に対して訴願を提起したこと、被告が昭和二十三年十一月十二日右訴願事件について原告等主張の理由の下に前記買収計画を取消す旨の裁決をしたこと、訴外平尾トミ子が昭和二十年十一月二十三日現在において訴外豊繁と同一世帯に属する親族であつたとすれば本件農地は右豊繁の保有小作地面積を超過し買収を免れない関係にあつたこと、訴外トミ子が訴外平尾秋生の入夫婚姻したことは認めるけれどもその余の事実は否認する。
(一) 本件農地の買収計画に対し、訴外豊繁及び同秋生の両名は法定の縦覧期間内に口頭で異議の申立をしたのであるが、白丹村農地委員会は何等の処置をしないので昭和二十二年十二月二日に改めて異議申立書を提出した処同委員会は前記の如く不法にも却下の決定をするに至つたのであつて、これは全く同訴外人等の口頭による適法な異議申立を無視したものというべきである。されば被告が右訴外人両名の前記訴願につき本件買収計画の当否を実質的に検討して裁決しても何等違法ではない。
(二) 本件農地は元志賀ウラの所有であつたが、同人が昭和十八年四月十二日に死亡した為同人の養子である訴外豊繁と長女である訴外トミ子(当時は志賀姓であるが、後に絶家防止の為訴外亡平尾政恵の家に入籍した為平尾姓となる)の両名がその遺産相続をしたのであるが、右豊繁は前記ウラの遺志により相続と同時にその持分を訴外トミ子に贈与したので、本件農地は右トミ子の単独所有となり後に平尾秋生がトミ子と入夫婚姻した為これに因つて秋生の所有となるに至つたのである。この事実は被告が実情を調査した結果認定したのであつて、本件農地の所有権関係について原告等の主張するような事実の誤認はない。従つて被告が本件農地を昭和二十年十一月二十三日現在の事実に基き、訴外トミ子の保有し得べき小作地と認定したのはむしろ当然である。
(三) 訴外トミ子は大正十五年頃より訴外豊繁方から約一町の距離に在る隠宅において父母の許に成育し、右ウラの死亡した昭和十八年には岩田高等女学校の学生として同校の動員令によつて大分市の工場に勤務し、昭和二十年七月下旬帰村したのであるが、それから昭和二十一年十月訴外秋生と入夫婚姻する迄の間は年若き女子一人のこととて兄に当る前記豊繁方に一時寄寓していたに過ぎないのである。従つて遡及買収の基準日である昭和二十年十一月二十三日現在において訴外トミ子は右豊繁の同居の家族ではないから、本件農地を以て豊繁の所有地と看做して保有面積を計算することはできないのである。
(四) 原告等がそれぞれ本件農地を小作し来つたことは相違ないが、原告等は昭和二十二年春頃訴外秋生との間に本件農地の小作契約を合意解除し、秋生に対して右農地を返還するに至つたので右秋生は同年度の稲作よりこれを自作し来つた。ところが原告等は秋生が同年秋に稲を収穫した後不法にも右秋生に無断で本件農地を耕作し今日に至つている。以上の次第であるからかような場合には右農地に対する原告等のいわゆる遡及買収申請は明かに信義に反するものというべきである。尚又訴外秋生は、本件農地を耕作する以外に生活の方途なく原告等もその窮状を察し前記の如く本件農地の賃貸借を合意解除したのであつて原告等は、右農地を秋生に返還しても何等その生活に脅威を感ずることはない。このことは次のように両者の耕作反別等を比較してみても容易に首肯し得るであろう。すなわち昭和二十三年以降昭和二十六年に至る迄において原告宗喜は田一町一反六畝十七歩、畑五反二畝八歩、農業従事者四名、原告輝男は田一町一反四歩、畑三反二畝九歩、農業従事者四名、原告仁一は田七反五畝二十五歩、畑二反二畝歩、農業従事者三名、副業として桶職を営んでいる状況であるのに比し、訴外秋生は昭和二十三、及二十四両年度において田二反四畝二十六歩、畑一反八畝十五歩、昭和二十五年度においては田一反三畝三歩、畑一反七畝三歩、昭和二十六年度において田二反八畝二十七歩、畑三反二十七歩、農業従事者二名という状況でその耕作反別は居村における一戸当り平均田一町一反歩、畑三反という数字に比し著しく低位に在るのである。されば以上の各事情は本件農地について自創法第六条の二第二項第一第二及第四号の各事由がある場合に該当するから右農地は此の点からしても買収すべからざる農地である。よつて被告が本件買収計画を取消す旨の裁決をしたのは結局正当たるに帰する。と述べた。(証拠省略)
三、理 由
先ず本案前の抗弁について検討を加える。
被告が昭和二十三年十一月十二日本件買収計画に対する訴願人平尾秋生の訴願事件について原告等の主張する内容の裁決をしたことは本件当事者間に争がない。ところで自創法による訴願の裁決に対する出訴期間は同法第四十七条の二第一項による当事者がその裁決のあつたことを知つた日から一ケ月以内又は裁決の日から二ケ月以内とされているのであるが、一般に行政処分に対する出訴期間の進行は当該処分がその効力を生じたことを前提とすることは論を俟たないところであるから本件訴願の裁決についてもその効力発生時期が問題となるのである。しかるに自創法の訴願についても亦別段の規定のない限り訴願法の適用があるものと解すべきであるから、本件訴願の裁決も同法により裁決書を作成し且その謄本を訴願人に交付したときに始めてその効力発生を肯定すべきものと解するのが相当である。されば前記にいわゆる裁決のあつたことを知つた日とは裁決を受けない第三者についていえば、右裁決がその効力を生じた後これを現実に知つた日を指称するものと考うべきである。これを本件についてみるのに、成立に争のない甲第一及び第四号証同第五号証の一、二の各記載に証人筑紫柳生(第二回)同加藤喜美人同井野求(第一回)同井博司の各証言を綜合すれば被告は昭和二十三年十一月十四日付を以て訴願人平尾秋生に交付すべき本件裁決の裁決書謄本を白丹村農地委員会に宛発送し同委員会は同年同月三十日これを受領したのであるが、訴願人秋生に対する右謄本の交付を遅延し、同年十二月二十五日に至つて始めてこれを右秋生に交付した事実を認めることができる。証人筑紫柳生(第一回)同河野晋同平尾秋生(第一回)の各証言中右認定に反する部分は措信し難く他に此の認定を左右すべき確証はない。しかりとすれば、本件裁決は昭和二十三年十二月二十五日にその効力を生じたものということができるから、その後一ケ月内である昭和二十四年一月十二日に提起されたことの記録上明かな本訴は原告等が現実に右裁決を知つた日時の如何を審究する迄もなく適法というべきである。よつて被告の本案前の抗弁は到底採用し得ない。
次に本案請求の当否について按ずるのに本件農地は元訴外亡志賀ウラの所有であり、原告等がこれを小作していたところ訴外ウラは昭和十八年四月十二日に死亡し、訴外志賀豊繁同平尾トミ子の両名がその遺産を相続したこと、訴外白丹村農地委員会は原告等いわゆる遡及買収請求に基き、昭和二十二年九月三十日本件農地は昭和二十年十一月二十三日現在において自創法第三条第一項第二号に該当するものとしてこれについて買収計画を定めたこと、訴外豊繁及び同平尾秋生が右買収計画に対して異議を申立てたところ、白丹村農地委員会は縦覧期間経過後の不適法な申立としてこれを不服として更に被告に対して訴願を提起したこと、被告が昭和二十三年十一月十二日右訴願事件について原告等主張の理由の下に前記買収計画を取消す旨の裁決をしたこと、訴外平尾トミ子が昭和二十年十一月二十三日現在において訴外豊繁の同居の家族であつたとすれば、本件農地は右豊繁の保有小作地面積を超過し買収を免れない関係にあつたことは本件当事者間に争のないところである。しかるに原告等は右裁決には主張の違法がある旨主張するのでその当否を検討するのに原告等の主張する違法理由の内第一、二点はいわば実体に関しない形式上の違法を理由とするものであり、又第三及び第四点は実体に関する違法というべきである。そこで先ず右の形式上の違法について審究する。
(一) 違法理由第一点について
訴外白丹村農地委員会が昭和二十二年九月三十日本件農地について買収計画を樹立し、その縦覧期間を同年十月八日以降同月十七日迄と定めたこと、訴外豊繁同秋生は右農地の買収計画に対する異議申立書を同年十二月二日に提出したことは本件当事者間に争がない。被告は同訴外人等は右縦覧期間内に口頭で異議の申立をした旨主張するけれども農地買収計画に対する異議の申立も一種の訴願と認むべきであるから、その方式については自創法に別段の規定のない限り一般法たる訴願法に従うのほかはない。しかりとすれば右異議の申立も訴願法第五条により書面によることを要するものと解するのが相当であるから、右訴外人等の異議申立は結局縦覧期間経過後のものと認めるのほかはない。しかし異議の申立を以て右の如く訴願の一種と解する限り、縦覧期間経過後の申立でも特に宥恕すべき事由ありと認められる場合には尚これを受理し得ることは同法の認めるところであり、しかもかかる場合の行政庁の裁量はいわゆる法規裁量に属するものと解すべきである。これを本件についてみるのに証人平尾秋生(第二回)同志賀豊繁(第二回)の各証言によれば訴外秋生同豊繁は本件農地買収計画の縦覧期間内に白丹村農地委員会に到り、屡々口頭で異議の申立をしたので、一応期間内に異議を申立てたものとして同委員会より右申立に対する何分の決定があるものと期待していたのであるが、何等の決定はなく、その後に至つて同委員会の係書記より異議申立は書面で提出するよう注意を受けたので、改めて前記の如く異議申立書を同委員会に提出した事実を認め得るから、同訴外人等の書面による異議申立が縦覧期間を経過したことについては、宥恕すべき事由がある場合に該当する。よつて白丹村農地委員会はこれを受理して異議の当否につき実質的な審査判断をなすべきであつた。してみると同委員会が訴外豊繁同秋生のした右異議申立を不適法として却下したのは失当であるから、これに対する訴外秋生の訴願に対し被告が右却下の決定を維持することなくその実質的理由を審査して裁決したことは結局正当たるに帰するものというべきである。
(二) 違法理由第二点について
本件買収計画に対し、訴外豊繁同秋生のした書面による異議の申立は縦覧期間経過後のものではあつたけれども、右に認定したように同訴外人等が期間を徒過したことについては宥恕すべき事由があつたのであるから右異議申立は尚適法な申立として取扱を受くべきである。従つて本件買収計画は縦覧期間経過後に因り直ちに確定したものとはいえないのであるから、原告等の此の点に関する主張は他の判断をする迄もなく理由がない。
(三) 違法理由第三及び第四点について
原告等の此の点の主張は要するに本件裁決にはその主張する事実の誤認があるというに帰するのであるが、仮に右裁決に原告等の主張する事実の誤認があり従つてその点において本件裁決は失当であるとしても、次に述べるように白丹村農地委員会は本件農地について買収計画を定めることはできなかつたのであるから、被告が右委員会の定めた右農地の買収計画を取消す旨の裁決をしたことは結局正当たるに帰し、この裁決の取消を求める原告等の本訴は理由なきものというべきである。すなわち右買収計画は昭和二十年十一月二十三日当時において本件農地を小作していた原告の遡及買収請求に基き定められたものであることは、本件当事者間に争のないところであるが、成立に争のない乙第七号証の記載、証人平尾トミ子同平尾秋生(第二回)同志賀豊繁(第二回)同志賀義照の各証言に原告等各本人の訊問の結果(但し後記措信しない部分を除く)を綜合すれば、前記のように訴外志賀ウラの死亡に因り本件農地は遺産相続に因り訴外豊繁同トミ子の所有に帰したのであるが、豊繁はウラの遺志に従い自己の持分をトミ子に贈与したので、トミ子の単独所有となり、次いで昭和二十年十月に右トミ子が訴外平尾秋生と入夫婚姻した為、右農地は更に相続に因り秋生の所有に帰したこと、かくしてトミ子と秋生とは一戸を構え、農を業として生活することとなつたのであるが、原告等に小作せしめている本件農地を除けば耕作農地は僅に田一反三畝(自作)、畑一反七畝(小作)という状態であつた為、昭和二十三年春頃原告等に窮状を愬えて本件農地の返還を申入れたところ、原告等もこれを承諾し、茲に訴外秋生は原告等との間に右農地の賃貸借を合意解除して同年の稲作よりこれを自作するに至つたところ、同年秋に白丹村農地委員会より行政庁の許可を受けない小作地の引上の罰則に触れる旨の注意を受けた為、訴外秋生は同委員会の勧告に従つて再び原告等に本件農地を引渡したこと、昭和二十三年度において訴外秋生は夫婦二人の家族で僅に田一反三畝三歩(自作)、畑一反七畝三歩(小作)を耕作していたのに反し原告宗喜は田一町二反七畝十九歩、畑五反二畝二十一歩(いずれも自作)を耕作し、家族数七名、原告仁一は田自作四反七畝二歩、小作二反八畝二十三歩、畑自作二反二畝を耕作し、別に桶職を兼業しており、原告輝男は田九反一畝十歩、畑三反三畝二十八歩(いずれも自作)を耕作し家族数七名という状況で、その耕作反別において原告等は遙かに訴外秋生に優越する地位に在るばかりでなく訴外秋生は農業による以外には格別収入の途がないことをそれぞれ認めることができる。原告等各本人訊問の結果中右認定に反する部分は措信し難い。
果してしかりとすれば農地の賃貸借の合意解除について行政庁の承認を必要とした農地調整法の改正規定は昭和二十二年十二月二十六日に施行せられ、訴外秋生と原告等との間にされた本件農地の賃貸借の合意解除は右認定の如くそれ以前のことであるから右解除は適法であるばかりでなく、前記に認定した解除の経過並に当時における小作人、地主双方の事情を検討すれば解除は正当であるということができる。更に反証のない本件では前段に認定した訴外秋生と原告等との耕作面積並に家族人員は本件買収計画が樹立された昭和二十二年九月三十日当時においても変化がないものと認めてよいから、右計画当時における原告等の耕作面積並に生活程度はいずれも訴外秋生の夫れに比し遙かに優越していたものと認むべきである。さればかような場合に原告等の遡及買収請求を容れて本件農地を買収しこれを原告等に売渡すことは農地の公平分配と農村の民主化を企図する自創法の精神に違背する。従つて本件農地に対する原告等の遡及買収請求は信義に反すること明かというべきである。
以上の判断によつて明かな如く被告が本件買収計画を取消す旨の裁決をしたことは結局正当であるから、右裁決の取消を求める原告等の本訴請求は理由がない。よつてこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九条第九十三条を適用し主文のとおり判決する。
(裁判官 大木楢雄)
(目録省略)